タッチングによる精神・生理機能の変化｜女性用性感マッサージsofre

Ⅰ　はじめに
看護婦は，患者に触れることにより疼痛を緩和し，不安を軽減し，また緊張を緩和している。1995年北原ら１）は，看護婦が実感しているタッチングの効果について調査している。その結果，看護婦は患者とのコミュニケーションや痛みや不安の緩和等患者に安心感をもたらす手段としてタッチを用いていることを明らかにした。また江口ら２）はタッチされた患者を対象に面接調査を行い，タッチングの効果を実証した。これらの研究において，看護婦が臨床で実感しているタッチングの効果については裏付けていると思われる。すなわち，看護におけるタッチングは，安心感をもたらすばかりでなく，患者の苦痛を和らげる効果もある。また看護婦と患者の皮膚と皮膚の接触により，相互の関係が深まるコミュニケーション効果や信頼関係を築く効果もある。
これまでのタッチングに関する研究は，北原ら１）の研究に認められるような主観的な研究2）～3）が多い。これは
タッチングによって，看護婦の手のぬくもりが患者に伝わり，患者の情動に何らかの影響を与えているのではないかと思われる。しかし，タッチングは看護技術の１つあでり，その技術の根拠を明確にする必要がある。タッチングの有効性を明らかにするために，生理的な反応で評価した研究があり，これらの研究では，皮膚血流や皮膚電位水準SRL）３）～５）を指標としている。皮膚血流や皮膚電位水準は，タッチングをしている際の実験者の体温等によっても影響を受けるとも考えられる。これまでのタッチングに関する研究では，精神・生理機能の側面から影響を明らかにしたものは少ない６）。
そこで本研究は，タッチングにより，不安や緊張がどの程度緩和されるのかを精神・生理機能の側面から明らかにすることを目的とした。
Ⅱ　方法
１　被験者
被験者は事前に研究の趣旨を説明し，研究の協力が得られた21歳の健康な女性６名である。
２　実験手順
実験手順は図１に示すとおり，「臥位・閉眼」，「座位・閉眼」，「座位・開眼」の後にタッチングを行った。タッチングの実験者は，女性（同性），男性（異性）でいずれも看護婦経験のある者である。臥位および座位の時間は
５分間とし，タッチングの時間は３分間，実験者は，被験者の前から両肩にタッチングを行った。同性，異性タッチングの間に座位のまま開眼及び閉眼の時間を２分間設けた。タッチング終了後，５分間閉眼座位で脳波および心電図の測定を実施した。
タッチングの圧はフジカラー社製プレスケール超低圧用で測定し，同性，異性ともそれぞれ両肩にかかる圧は，１～0.5MPaずつであった。圧の差は，被験者の肩幅，肩の厚さなどが影響していると考えられたが，今回の分析では，肩に掛かる圧をほぼ一定と考えた。また，この圧を測定するための装置によって，３分間のタッチングで体温は伝わらないと考えた。
３　測定，解析方法
タッチングの影響を測定する精神・生理的指標として，脳波，自律神経系の緊張の指標としてR-Rの平均間隔，R-R間隔の変動係数を用いた。脳波は国際標準電極配置法に基づきFz，Cz，Pz，Ozを選択した。心電図も同時に測定した。
脳波は各測定開始から30秒後の１分間の解析を行った。それぞれAD変換後，周波数分析を行い，２～４Hzδ波），４～８Hz（θ波），８～10Hz（α１波），10～13Hzα２波），13～20Hz（β１波），20～30Hz（β２波）の６つの帯域に分けた。さらに各被験者の安静時を基準値とし，それぞれの測定時におけるトータルパワーとの比率を算出し，比較した（ｔ検定）。なお，今回は，アーチファクトが少ない部位であるCzにおける脳波を，データ解析ソフトアクノーロッジ３（バイオパック社MP100）で解析した。また心電図も脳波同様，各測定開始30秒後から１分間のR-R間隔を各被験者ごとに測定し，R-Rの平均間隔，R-R間隔の変動係数CV％を算出し，経時的変化とともに開眼時，閉眼時の変化をみた（ｔ検定）。あわせてY-G性格テストとの関連をみた。
Ⅲ　結果
１　被験者の背景
被験者は全員，同性および異性の実験者の氏名を知っていたが，個人的な関わりはなく，特別な感情は抱いていなかった。被験者のY-G性格テストの結果は，Ａ型１名，Ａ″型２名，AD型，AE型，Ｅ型がそれぞれ１名であった。
２　開眼でのタッチングによる生理的変化
脳波は，安静時を基準にそれぞれの測定時におけるトータルパワーを比較したが，有意な差は認められなかった。またトータルパワーを100%として各帯域でその割合を比較した。その結果，安静時，終了時は同性，異性いずれもタッチングを実施したときよりも安心感を示すα1波の割合が多かった。また緊張感を示す帯域β1波（13-20Hz）は同性のタッチング時に多かったが，有意な差は認められなかった（図２）。Y-GテストでＥ型であった者は，タッチングによる変動が大きかった。

R-R間隔の変動係数（CV％）は同性，異性に関わらずタッチングの際に，安静時に比べて小さくなった（図３）。同性のタッチングと異性のタッチングの状態を比較すると，異性の方がR-R間隔の変動係数が，僅かであるが小さく，緊張感が少ないことを示していた。またR-R間隔の平均値も同様の傾向を示し，タッチングによって僅かではあるが，緊張が和らぐのではないかと思われた。またα１波も僅かであるが同性よりも異性のタッチングの方が多かっ

Y-G性格テストでは，E型の者は同性，異性共にタッチングによりR-R間隔の平均値が縮小し，変動係数が大きく交感神経の緊張を示していた。一方AD型の者は，R-R間隔の平均値が大きく，変動係数も小さく交感神経の抑制を示していた。
３　閉眼でのタッチングによる生理的変化
閉眼でのタッチング時も開眼時同様，脳波変化は安静時を基準にそれぞれの測定時におけるトータルパワー100％として各帯域を比較したが，有意な差は認められなかった（図４）。α１波（8～10Hz）においては有意な差はなかったが，α２波（10～13Hz）においてはわずかに（p<0.05）同性タッチングの方が異性タッチングに比べて多いことが認められた。しかし，他の帯域では有意な差は認められなかった。
R-R間隔の変動係数（CV%）は，同性，異性に関わらず，タッチングによる影響はなく，安静時との比較でも有意な差は認められなかった。しかし僅かであるが，少なくなっている傾向を示し緊張が緩和している様子がうかがわれた（図５）。また，タッチングの実験者が同性である場合と異性である場合を比較したが，有意な差は認められなかった。しかし同性の方が変動が少なく，緊張感が少ないのではないかと考えられた。さらにα１波，α２波を加算してα波全体をみると，図５のとおり実験者の性別によらず，タッチングをしているときは，座位でいる時よりもα波は増加していた。α波の出現とR-R間隔の平均値および変動係数との相関は認められなかった。
閉眼でのタッチングにおいては，性格傾向による著明な差は認められなかった。

図６は，タッチング時のR-R間隔の変化を示したものである。いずれも有意な差は認められなかったが，同性，異性に関わらずタッチングをしているときは，閉眼時で縮小傾向を示し，座位時は逆に閉眼時の方が拡大していた。このことから，タッチングをしている最中は閉眼時の方が，また座位時には開眼している時の方が，自律神経の緊張が高い傾向が認められた。

Ⅳ　考察
タッチングによって，リラックス傾向を示すα波が僅かながらも増加していることが明らかになった。また自律神経の緊張を示すR-R間隔の変動係数は，臥床安静の時よりもタッチングによって減少していった。このことは，座位を保持することによって，何か動作を行っている時に比べて心拍数が安定するのではないかとも考えられた。しかし，閉眼時のタッチングにおいては，終了時よりもタッチング最中の方が変動係数が少なかった。これらのことによって，タッチングによって自律神経機能が安定すると考えられ，そのために精神的にややリラックス感をもたらすのではないかと考えられた。座位時のR-R間隔変動係数が他に比較して高いのは，安静臥床から座位へ体位を変換したことによる影響もあると考えられた。
また閉眼時のタッチングと，開眼時のタッチングでは，R-R間隔の平均値は異なっていた。しかし脳波においては，開眼時のタッチングであっても，閉眼時のタッチングであっても，類似の傾向であると考えられた。一般に開眼時にはα波は抑制され，閉眼時に出現しやすい7）と言われている。そのため脳波は開眼時，閉眼時を単純に比較することはできない。1993年の実験で，２人ずつの被験者が，相互に手を合わせるペアと接触しないペアにわかれ心拍率を測定したところ，相互に手を合わせたペアの方が心拍率が高くなったという報告8）がなされている。この結果についてWilliams 8）らは，これを筋緊張によるものであると考察している。この研究では閉眼の記載がないため，開眼で実験をおこなったと考えられる。
本研究の場合も，開眼時にR-R間隔が増加したことは，タッチングをすることによって生じる被験者の筋の緊張の結果とも考えられるが，実験者が被験者の前に立つという位置にも影響されていると考えられた。または被験者が閉眼でいることにより，周りの状況を察知できず，開眼でいる時よりも不安感が強くなっているとも考えられた。したがって本研究において，α波が増加したのは，タッチングによる効果と考えられるのではないかと思われた。
本研究では，同性である女性と異性である男性のタッチングによる差はほとんど認められなかった。しかし男性の方がタッチングによって不安を減少させやすい9）という研究や，男性と女性でタッチングの部位によって快，不快の感じ方が異なるという研究10）もある。本研究は対象者数が少ないこともあるが，タッチングの部位が両肩であったこと，被験者が異性である男性の実験者の氏名等プロフィールを知っていたことも影響していると考えられる。