スムーズな動作につながる呼吸法と力の抜き方｜女性用性感マッサージsofre

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1. 呼吸と呼吸法

我々の通常の呼吸は横隔膜による吸気を中心とした無意識的な呼吸であり，その働きは，外気から酸素を取り入れ，
物質代謝の結果生じた二酸化炭素を排出することである一方，坐禅，太極拳，ヨーガ，気功，武道などでは，意識
的に調節できる呼吸運動の特性に基づき，目的をもって意識的に呼吸が行われる．意識的呼吸の基本は，下腹部の運
動を意識した腹筋呼吸もしくは丹田呼吸であり，これが呼吸法である．呼吸法では通常，吸気よりも呼気に重点が置
かれ，様々な心理学的，生理学的な変化を伴うことが知られている．
　呼吸法の精神的効果については様々な場面で取り上げられているが，スポーツや武道において特に認識されてきた．通常，競技場面でのあがりや過度な緊張はスムーズな動作を妨げると考えられるので，呼吸の精神的な効果を狙う場合，リラックスするという目的のために呼吸を整えることがよく行われている．
　リラックス感は心理学的および生理学的な呼吸法の効果として重視されてきた．平井 1) は高僧を被験者として，坐
禅の最中の脳波にα波が出現することを見出した．α波の振幅増大と周期延長が 60 分間の坐禅の最中に継続する一方で，呼吸数の減少と脈拍数の増加が得られたため，彼は坐禅により大脳皮質の興奮水準の低下と脳幹部の自律神経機能の開放がもたらされたと推測した．この大脳皮質の興奮水準の低下によるα波の出現はリラックス感と密接な関係があるものと思われる．
　我々は坐禅で行われる意識的な呼吸法を，坐禅の経験の無い被験者を対象に，以下のように行わせた ．被験者に自らの腹筋筋電図をオシロスコープ上で確認できるように工夫し，呼気時間は 9 ～ 12 秒，吸気時間は 6 ～ 8 秒となる
ように大まかにセットした．被験者には腹筋を意識した呼吸法（腹筋呼吸法）を無理なく，しかしできるだけしっか
りと行うように指示した．開眼状態で 20 分間の呼吸法を行わせると，呼吸法開始後約 5 分の時点からα波が出現し，その後α波の出現頻度は増大して頻回に観察されるようになった（図 1）．

　α波は通常，閉眼によって直ちに出現することが知られている．そこで我々は，閉眼状態で同様の呼吸法を実施した．その結果，閉眼によって出現するα波（遅い周波数帯の LFα波 (8-10Hz)）は減少し，速い周波数帯の HF α波 (10-13Hz)が増加した（図 2）．
　呼吸法の前後で行った心理テスト（POMS）の結果から，被験者は不安が少なく活気のある心理状態になることが明らかとなった．以上のことから我々は，呼吸法によって出現するα波は，不安が少なく活気のある心理状態に関係する HF α波であると結論した．　一流選手は，本番の試合においては，「心」が「技（術）や「体（力）」よりも重要であると答えることが多い．また，ピークパフォーマンス時の言葉として，「リラックスしつつ集中できていた」というものがあり 3)，一見相反する 2 つの状態が適度に配分されていることが重要であることは間違いない．また，剣道では腹式呼吸法によって，技力のみならず，集中力も向上し，「不動心」や「平常心」という物事に執着
しない安定した精神状態に立つことを目指すという 4)．
　最近我々は，近赤外分光法 (NIRS) を用いて，呼吸法の最中の前頭前野の活性化に注目して実験を行った．その結果，上述した腹筋呼吸法の最中には前頭前野の血流が徐々に増加する結果を得た（図 3）5)．前頭前野は作業記憶 6)，注意 7)，意欲 8) 等様々な機能を担う．また，「注意の持続」もしくは「意欲の持続」は，スポーツや武道における集中力に含まれ9），前頭前野の機能と関係する．従って，呼吸法に伴う前頭前野の血流増加と HF α波の出現および不安が少なく活気のある心理状態への変化は，「リラックスしつつ集中」というピークパフォーマンスを導く状態が呼吸法によって得られる可能性を示唆する．

2. 呼吸法と運動ニューロンの促通

　剣道では，深く正しく呼吸すれば自然に姿勢が正しくなり，姿勢が正しくなればそれに伴って心も正しくなる 4)，
と言われる．しかしながら，呼吸法が姿勢や心および力の抜き方におよぼす影響のメカニズムは不明である．
　我々は呼吸法によって，脳幹の縫線核にあるセロトニン神経が活性化され，その下行性投射によって運動ニューロ
ンが促通され，姿勢が安定し筋力発揮が容易になるという仮説 10) を検証した．
　縫線核セロトニン神経の活動には二つの特徴がある．一つは，睡眠・覚醒の状態に依存したインパルス発射がある
こと．すなわち，覚醒時に低頻度で持続的なインパルス発射があり，睡眠に移行すると発射がまばらで不安定になり，レム睡眠では完全な発射停止にいたる．もう一つの特徴は，各種のリズム運動によって，覚醒時の持続的なインパルス発射が増強されることである．
　各種リズム運動とは呼吸，咀嚼，歩行，水泳等の運動である．これらのリズム運動による縫線核セロトニン神経の
賦活は，Jacobs11) のグループの動物実験によって示された．
彼らの報告によるとセロトニン神経の規則的な活動は，各種のストレスに対しては揺るがなかった．これに対し，中
枢パターン形成機構（central pattern generator）によって発現するリズム運動，すなわち呼吸，歩行，咀嚼などのリズム運動により，自発性発射頻度が増強した．
　我々の呼吸法に関する実験では，先に説明した腹筋呼吸法を被験者に行わせ，その最中にヒラメ筋から筋電図を記
録して，膝窩部に電気刺激を与えて H 反射を誘発し，呼吸法の効果を観察した 12)．
　その結果，呼吸法開始後数分の時点から，ひらめ筋 H 反射の振幅が増大する結果を得た（図 4）．セロトニン神経は上行性投射だけでなく，脊髄に下行性投射することが解剖学的に明らかにされている．その標的細胞は，脊髄前角の運動ニューロン，後角の痛覚伝導二次ニューロン，中間外側核の交感神経節前ニューロンである．運動ニューロンについては，その作用は促通効果であることも明らかにされている．従って，呼吸法によってセロトニン神経が活性化され，ヒラメ筋 H 反射の増強をもたらしたと考えられる

セロトニン神経の活性化を直接的に証明することはヒトでは困難である．髄液を採取してセロトニン濃度を測定す
る方法もあるが，健常者では実施できない．血液脳関門（BBB）によって，脳と血液との間では活性物質の移動が制
限されるが，近年，Terasaki のグループ 13) が脳毛細血管にセロトニントランスポーターが発現することを報告し，我々も動物実験において，脳内セロトニンレベルの増大と血液中セロトニンレベルの増大に対応が見られることを確認した 14)．これらの結果から，脳内セロトニンが血液に移行する可能性が出てきた．我々は呼吸法 5) や各種リズム運動 15-17) の前後で血液中のセロトニンレベルを測定したところ，有意に増加することを確認した（図 5）．
　セロトニン神経の活性化による運動ニューロンの促通効果は，力の抜き方にどのように関わるのだろうか．セロトニン神経の運動出力への作用は古典的な神経伝達物質としての働きではなく，神経修飾物質としての作用である．すなわち，セロトニンを単独で運動ニューロン周囲に投与しても発射活動は発生しないが，対応する運動野を刺激することによって運動ニューロンの発射活動をあらかじめ誘発しておくと，セロトニンはその発射頻度を増強させる 18)．しかも，このような促通作用は長く遷延する特徴がある．従って，呼吸法によりセロトニン神経をあらかじめ活性化させて，運動ニューロンに対して促通効果を与えておけば，運動野から運動ニューロンへの神経伝達が増強されるため，目的とする筋力発揮が容易になるものと考えられる．このように，セロトニン神経の促通効果は，運動野からのより少ない指令によって目的とする動作を達成できることを示唆する．

3. 呼吸と力の抜き方

下半身の ｢抜き動作｣ ( 膝関節の脱力 ) をきっかけとして行われる全身性の動作は，「抜き動作」をきっかけとしない
全身性の動作よりも，効率的で素早い動作の遂行を行える可能性が報告されている 19)．｢抜き動作｣ では，被験者の膝関節の脱力による，大腿四頭筋筋放電の休止期が観察される．あらかじめ主動筋に軽度の随意的な緊張を与えた状態から急速な反応動作を行うと，動作に先行して筋放電の休止期 ( 動作前 silent period) が観察されることが報告されている 20)．｢抜き動作｣ では筋放電開始前に意図的な膝関節の脱力による動作前 silent period が挿入されることになる．この動作前 silent period は重心落下による位置エネルギーの変化を発生させると考えられる．効率的でスムーズな動作は，移動に必要なエネルギーを筋力発揮のみに依存するのではなく，力を抜くことをきっかけに発生する位置エネルギーの変化を利用することで達成されるものと思われる．
　我々は剣道の一流選手を対象に，面打ちを行っている最中の呼吸ならびに下肢の筋電図を測定した．その結果，踏
み込みの開始に伴って前足の大腿四頭筋筋放電の休止期が観察された．また，その休止期の開始に先行して呼気が起
こることが明らかとなった（図 6）．また，このようなパターンは，一流の空手競技選手においても観察された．我々の実験結果は 2 つの重要な示唆をもたらす．一つは「抜き動作」の発生に呼吸が重要な役割を果たす可能性，二つ目はこのようなパターンは一流選手においてはほぼ無意識的に遂行されていることである．しかしながら，呼吸と動作の関係，また素早いスムーズな動作における呼吸の意義については不明な点が多い．
　様々なスポーツや武道において，呼吸と動作との関係は，多くの研究者の興味を集めてきた．加賀谷 21) が指摘したように，素早い動き，微妙な調整を要する動きには呼吸と動きのタイミングが重要であろう．また，呼吸相と動作のタイミングについては，競技種目ごとに報告がなされてきた．

例えばアーチェリーでは，止息あるいは浅い呼息でエイミングしリリースするパターンが推奨されているようである．しかしながら，実際の呼吸パターンは個人内・個人間で異なる傾向があるため，呼吸パターンのルーティン化が良いパフォーマンスにつながると考えられている 22)．勝田ら 23)も，射撃において，呼気相の終わりから吸気相へ入る所で停止する一様のパターンを得たものの，射撃種目，射撃姿勢によって至適な呼吸停止期間があることと，一流選手は被験者毎に一様の動作，呼吸パターンを持っていることから，失点はこれらの習熟した良好なパターンから外れた場合に起こりやすい，と述べた．従って，スムーズな動作につながる抜き動作と呼吸に関しては，競技種目ごとに推奨されている呼吸パターンをモデルにしながら，その呼吸パターンを個人内で調整し，動作と呼吸のタイミングを獲得したうえで動作を行うことが重要になると思われる．
　呼吸と動作の習熟した良好なパターンの獲得は，安定した姿勢を導き，良いパフォーマンスが得られる可能性があ
る．その理由は，呼吸筋が呼吸運動に関与するだけでなく姿勢筋としての機能を持つことである．その具体例は，
Hodges らの研究に認められる．
Hodges ら 24) は，横隔膜の筋電図が吸気時に出現することを確認したうえで，被験者に上肢の運動を行わせると，上肢の運動に一定時間先行して，横隔膜の活動が表れる結果を得た．次に，上肢の運動を連続的に繰り返して行うと，吸気を起こすための横隔膜の筋電図活動に重畳して，上肢の繰り返し運動の周期に対応した付加的な横隔膜の筋電図活動が出現した．同様の筋活動は腹筋 25,26) や肛門周囲の骨盤底筋 27) にも見られた．これらの筋活動は腹圧を上昇させる．腹圧の上昇は脊椎を安定させるので 28），姿勢の安定に関係すると考えられる．
　このように，呼吸筋は姿勢に対しても重要な役割を持つ．習熟した良好な呼吸パターンがスムーズな動作において重要となる理由は，安定した姿勢をもたらすことと推察される．しかしながら，呼吸と姿勢のいずれかの要求が増すと，呼吸と姿勢の協調が不可能となることが予想される 28)．すなわち，呼吸筋の役割において，呼吸運動に関与する役割が強く求められれば，姿勢筋としての役割は減弱し，姿勢筋としての役割が強く求められれば，呼吸運動に関与する活動は減弱する．従って，良好な呼吸パターンと動作に習熟することは，呼吸筋の姿勢筋としての役割と呼吸運動に関与する役割のバランスを整えることになり，良いパフォーマンスが導かれるものと考えられる．

4. まとめ

　呼吸法によって，「リラックスしつつ集中」というピークパフォーマンスを導く状態が形成されるメカニズムについて，脳波と前頭前野の脳血流および心理面から考察を加えた．また，呼吸法がセロトニン神経の下行性投射によって運動ニューロンを促通させる，という我々の仮説に基づく実験を紹介した．さらに，呼吸と動作の関係において，「抜き動作」に呼吸が重要な役割を担う可能性およびその意義について考察した．
　呼吸法の精神的および身体的効果はセロトニン神経の活性化に大きく関係する．セロトニン神経の活性化は呼吸法
のみならず，咀嚼や歩行等のリズム運動によっても得られる．我々は最近，ガム咀嚼中に前頭前野の血流が上昇し，
ガム咀嚼後に血液中のセロトニンレベルが増加する結果を得た 16,17)．また，同様の結果は自転車こぎの実験においても得られた 15）．プロスポーツの場面でよく目にするガム咀嚼を含めて，様々な競技種目で行われる，走る，泳ぐなどの反復練習は，セロトニン神経の活性化による精神的および身体的効果を無意識のうちに狙っているようでもあり興味深い．
　呼吸法はリラックスしつつ集中という状態を導き，運動ニューロンを促通させて筋力発揮を容易にする可能性を秘
めている．ピークパフォーマンスは，このような準備状態を基盤として，トレーニングにより獲得された呼吸パター
ンとともに，必要なエネルギーを筋力発揮のみに依存しない動作を行うことによって得られるものと思われる．