健康女性 に対す る呼吸法 によ るリラックス反応 の評価

健康女性 に対す る呼吸法 によ るリラックス反応 の評価｜女性用性感マッサージsofre

【背 景 ・目的】 本研 究 の 目的 は,呼 吸法 によ るリラックス反応 につい て明 らか にす る ことであ る.

【 対象 と方法】

リラクセー シ ョン技法 の練 習が初 めての健 常 女性79名(実 験1:35名,実 験2:44名)を 対 象 とした。
実験1で は,被 験 者全例 が呼 吸法 を行 う実験 群 と安静 のみの対照群 の両群 を実施 した.5分 間の呼吸法 また は
安静 の実施 を実施 中 とし,実 施 前後 の脈拍,血 圧 を測定 した.実 験2で は,無 作為 に22名 ず つ実験群 と対照群
の2群 に分 け,実 施前,実 施 中,実 施後 に各3分 間 の脳波 を測 定 した.

【 結 果 】

実験群 で は,実 施 後 に脈拍数 は有意 に減少 したが,対 照群 で は変化 はなか った.血 圧 は両群 ともに変化 はなか った.α 波 は,実 施 後 に実験群 では増 加 し,対 照群 では低 下 し両群 間 に有意差が認 め られた.β 波 は,実施 後 に実験群 で は低下 し,対照群で は増加 したが有意差 はなか った.

【 結 論 】

呼吸法 は安静 に比 べて脈拍数 を減少 させ,α 波 を増 加 させ るこ とが明 らか とな った.呼 吸 法 は初 回練 習者 で も他 の リラ クセー シ ョン技 法 と同様 の反応 が得 られ る と考 えられた.

相補代替 医療へ の関心が高 ま り,看 護 介入 としての リラクセーシ ョン技法が 注 目され て きて い る.な か で も呼
吸法 は,技 法 も簡 単で あ り短時 間 に修得 で き る上 に実施しやす いため に汎用性 が高い.1
呼吸法 は,従 来か ら術後 患者,慢 性 呼 吸器疾 患の患者,産婦 な どを対 象 として しば しば用 い られ てお り,呼 吸法
によって症状 の緩和や精神 の安定が 図 られた報告 は数多い.2-5し か し,ほ とん どの報 告 は換 気機能 を維持 す るための術 前 ・術後 の深呼吸法,口 すぼ め呼吸(抵 抗 呼吸法)を用いた反応 の報告,腹 式 呼吸 法で あって も不安 尺度 や疼 痛ス ケールな どを用 いた主観 的評価 によ る報告,あ るい は症例報告 であ るこ とが 多い,
リラクセー シ ョン技法 としての呼 吸法 は,丹 田呼吸 法に代 表 され る ように伝統的 に心 身 コン トロール として古くか ら用 い られて きた.単 に効 率 の よいガス交換 を促 すことに留 ま らず,呼 気 を意識 した腹 式呼吸 とともに気持ち を集中 させ身体 の緊張 を取 り除いて い くことが本来 の目的で あ る,そ れ によ り,情 緒 的 な安 定 も図 る こ とが できる.6呼 吸 を整 え るこ とに よって心 と身体 をリラックスさせ,心 身 の調和 を図 る ことがで きるのであ る.7
リラクセー シ ョンを 目的 とした呼 吸法 の報 告 は,他 のリラクセー シ ョン技法 の基本 テ クニ ックとして併用 されて いる ことが多 く,呼 吸法単 独 での効 果 を生理 的指標 によ り検 証 した もの は少 な い.こ の技 法 は,リ ラ ク セーシ ョン技法 の中で は最 も簡単 に習得 で きる方法 とされてい る.他 の リラ クセー ション技 法 は,一 定 のマ ニ ュア ルが ある ものや,イ メー ジの誘 導 に一 定 の訓練 を要 す る といわれ てお り,そ の習得 まで にある程度 の期 間 が必要 であ る.こ こで は,医 療 の場 にお け る練習時 間 の確 保 の難しさや,練 習 を指示 され る ことによ る患者 の負担 を少 しで も避 ける ことを意図 して,初 回練 習者 を対 象 とした呼吸法 の リラ クセー シ ョン効果 を検 証 す る こ とを 目指 した.呼 吸法の みで も 十分 に リラ ックス反応 が得 られ る ことが検 証 されれば,看 護 介入 としての活用性 が高 まる と考 えられ本研究 に着手 した。

本研 究 の目的 は,リ ラクセー シ ョン法 としての腹 式呼吸(横 隔膜 呼吸)に よる呼吸法 の生理 的反応 を明 らか に
す る こ とで ある。本 研究 は2つ の実験 か らな る.実 験1では呼吸循環機能 への影響 を検討 す るた めにバ イ タル サイ ンにお ける反応 を評価 した.実 験2で は高次脳機 能への影 響 を検 討 す るた め に脳 波 にお ける反応 を評 価 した.
実験1で は,臨 床 において測定 され るこ との多 い指標 によ り,実 験2で は,大 脳 レベ ルで の リラ ックス反応 を評
価 するた めの指標 に よ り検証 する もので ある.

用語の操作 的定義

ここで は,呼 吸法 を次 の ように定 義 した.横 隔膜 の運動性 を高 める ことを意 図 し,呼 気 の過程 を重 視 した呼吸
運動 を,閉 眼 して椅 子 に座 った状 態8で1分 間 に3-4回の速 さで行 う方 法で あ る.具 体的 な方法 は,次 の通 りで
ある.閉 眼 し,1-2回 の深 呼吸(通 常の呼吸 ではない意識 した大 き く深 い呼 吸)に よ り呼吸 に意識 を向けた後 に,
軽 く吐 き出 してか ら開始す る.ま ず,鼻 か ら息 を吸い込み,腹 部 を膨 らませ るよ うにす る.時 間 の 目安 として4
秒 であ る.次 に,吸 気 か ら呼気 への切 り替 えの間 を1-2秒 おいて か ら,口 元 をす ぼめ加減 に して,細 く長 くゆっ
くりと吐 き出 しなが ら下腹部 を窪 ませ るよ うにす る(約8秒).呼 気時 に は,意 識 して全身 の骨格 筋 の力 を抜 きなが らす すめ る.
また,安 静 とは,呼 吸法 を実施す るの と同 じ時 間,閉 眼して何 もせず に同 じ椅子 に座 って過 ごす こ とで あ る.

呼吸法 の理論的根拠

呼吸運動 は,不 随意神 経で あ る自律 神経 系 によって司られ てい るが,呼 吸筋が 随意筋 であ るた めに意 識 して調
節す る ことがで き る.ゆ った りとした呼 吸 に よ り呼 吸数を調整 し,横 隔膜 の動 きを高 める よ うに意識 した深 い呼吸 が副 交 感 神 経 の働 きを優 位 に す る と考 え られ て いる.9～12通常,腹 式呼吸 によ る呼吸運動 で は,吸 気時 に は横 隔膜が約10mm沈 下 し,1回 呼吸量 の50%以 上 を まかな うこ とが で きる.13吸 気時 には肋 間筋 の緊 張 と共 に横隔膜 の緊張 が高 ま り交感 神経 が充進 す る.吸 気 が最大 に達 し,吸 息性 ニ ュー ロンの働 きが抑 制 され る と呼気 に切り替 わ る.呼 気 時 には,横 隔膜 が弛緩 して副 交感神 経 の機i能が充進 す る.14,15呼気 の過程 は,内 臓 壁 と共 に呼 吸筋な ど骨格 筋 の 弛緩 を促 す.よ って,リ ラ クセー シ ョンのた めの呼吸 法で は,呼 気 の過程 を吸気 時 の2倍 の長 さ とす る ことが特 徴 であ る.ま た リラクセー シ ョン効 果 を高め るた めに,呼 気 に合わせ て意図 的 に身体 の力 を抜 くことに よ り,よ り十 分 に骨格 筋 の緊張 が取 り除 かれ,ス トレスや緊張 に よって,無 自覚 に生 じて しまう内受容感 覚器(筋 紡錘,ゴ ルジの腱 器官)の 興奮 が減 弱す る.16その結果,上 行性 に知覚神 経 を通 り,脊 髄 神経 を通 り,脳 幹網様体 系 を介 して大脳 の感覚野 に広範囲 に投射 され る刺激量が減少 し,リ ラ ックス感 が認知 され る.そ の リラックス感 を受 けて,下 行性 に運 動神経 さ らに は自律 神経 中枢 を介 して,身 体 感 覚 あ るい は 内臓 の働 きの変 化 と して リラ ックス反応が現 れ る と考 え られ る.
以上 の こ とか ら本研 究 で は,横 隔膜 を介 した意識 的 な腹式 呼吸 を行 い,呼 気 に意識 を向 け同時 に身体 の力 を抜くことによ りリラ ックス反応 を引 き出す ことを期待 した呼 吸法 を行 う.こ の時の リラ ックス反応 は,自 律 神経 機能 お よび大脳 の活動性 の変化 を示 す脳 波 によって評 価できる.よ って,以 下 の よ うに仮説 を設定 した.
1. 呼吸法 に よ り脈拍数 は減少 す る
2. 呼吸法 に よ り血圧 は低下 す る
3. 呼吸法 に より α波 は増 加す る
4. 呼吸法 に より β波 は減衰 す る

対 象 と 方 法

1. 対 象

実 験1は 健 康 女 性35名(19-26歳),実 験2は 実 験1の対象者 を含 まな い健 康女性44名(21-24歳),全 ての被験者 が呼吸法 の初 回練 習者で ある.

2.実 験 デザ イ ン

呼吸法 を実施 した群(実 験群),安 静の みの群(対 照群)とし実験1で は全員が両群 に参加 し,実 験2は 無作為 に
22名 ずつ両群 に分 けた.実 験1,2と もに実験群 と対照群を比較 す るプ レテス ト ・ポス トテス ト ・コン トロールデザ インに よる実験研究 であ る.

3. 評価指標

実験1は 指標 を血圧,脈 拍 とし,い ず れ もテル モ電子血圧 計ES-H51を 用 いて測 定 した.実 験2は 脳 波 とし,
NF回 路設 計 ブ ロック社 のEEGプ ロセ ッサ ー5101を 用い,国 際電極 配置 基準 に よる単 極誘 導 に よ り,右 前頭極
部(Fp2),右 前 頭部(F4),の2カ 所 を測 定 した.解 析 は,キ ッセコムテ ック社 の解析 ソフ トアタマ ップIIを 用 い周
波数解析 を行 った.解 析結果 か ら全周波 数帯域 におけ るα波(8.0～13.OHz)お よび β波(13.0～30.OHz)の 含有率
(%Power)を 比較 した.デー タの分析 は,実 験1,2と もに両群 につ い てSPSSを用 い てt検 定 を行 い,危 険 率5%未 満 を有 意差 あ りと判 定 した.

4. 実験条件

人工 気 候 室 にお い て,室 温250C,湿 度50%に コ ン トロール した状態 で実施 した.被 験 者 は,眼 鏡,時 計,装 飾
品 な どははず し,着 衣 はゆ った りした もの と した.椅 子に座 り,手 は軽 く大 腿部 の上 に置 き,膝 は肩幅 程度 に開いた状態 とした.デ ータの測定 は,午 前中 に実施 した.

5. 実験手 続 き

被験者 に対 し,前 日まで に呼 吸法 につ いてパ ンフ レット(資 料1)を 用いて説明 した後 に10分 間 の練習 を行 っ
た.当 日は,デ ータへの影響 を避 けるた めに呼吸 法 の練習 はせ ず,方 法の確認 のみ行 った.
座 位 にて10分 間 の安 静後 に実験 を開始 した.実 験 群は呼吸法,対 照群 は安 静 を5分 間実施 し,こ れ を実施 中
とした.実 験1で は実施 前後 の脈拍数 血圧 を測定 し,実験2で は実施 前,実 施 中,実 施 後 にそれ ぞ れ3分 間 の脳
波 を測 定 した(図1).

＜資料1＞ 被験者 指 導用パ ンフ レ ッ ト

リラックスのための腹式呼 吸法

★ 呼吸 は,リ ラ ック スす るた めの最 も簡 単 な方法 で す.呼 吸 を調 え る こ とに よって,気 持 ち を落 ち着 け,身 体 の疲 れ を和らげ る ことがで き ます.ゆ った りとした呼吸 を とお して,心 と身 体 の緊張 を取 り除 き,リ ラ ックス(=再 び弛 める)し た,気持 ちの良 い状態 で過 ごし まし ょう

★ リラ ックスのた め の呼吸 法の ポイ ン トを次 に示 し ます
＜4つ の準備 ＞
◆ 静 か な落 ち着 いた場 所で練 習 します
◆ 時計 や めがね を はず して,身 体 をしめ つ けない ゆった りとした衣服 で行 い ます
◆ 背 もたれ のあ る椅 子 に深 く腰掛 け,身 体 を楽 に し ます
◆ 両足 は ゆった りと下 ろして肩幅 くらい開い て,両 手 は膝 の上 に軽 く乗 せて お き ます

＜呼吸 法の練 習 の進 め方 ＞
◆ 練 習 中 は こころ を空 っぽ にして,受 け身 の気 持 ちで過 ご します.何 かが 浮か んで きて も,そ の ま ま受 け流 す よ うに します
◆ 気持 ち を集 中させ るた め に,眼 は軽 く閉 じてお き ます
◆ 息 を吐 き出す たび に,「ひ と一つ」 と唱 えなが ら身体 の力 を抜 い て い きます
◆ 鼻か らゆっ くり と吸 い込 んで,さ らにゆ っ くり と吐 き出 し ます.吸 う息 の2倍 位 の長 さで気 持 ち を込 めて吐 き出 していきます
◆ や り方が正 しか ったか を気 にす る必要 はあ りませ ん.気 持 ち よ くで きれ ばそれ で よいの です

＜呼 吸法 の実 際 ＞
◆ (ま ず最初 に,軽 く吐 き出 してか ら)

鼻 か らゆっ くり と吸い なが ら(頭 の 中で)1,2,3,4,と 数 えます
◆ 一端 息 を止 めてか ら
◆ (口元 をす ぼめ加 減 に して)ゆっくりと細 く長 く吐 きなが ら1,2,3,4,5,6,7,8と数 え ます
慣 れて きた ら 「ひ と一 一 つ」 と唱 えなが ら,自 分 に あった リズ ムで行 う と良 いで しょ う

6. 倫理 的配慮

実験 に当た っては,被 験 者 に対 し文書 お よび 口頭 にて目的 ・方法 ・得 られたデー タの取 り扱い につ いて説 明 し文書 に よる同意 を得 た.ま た,実 験 中 は,本 人 の申 し出 によ り直 ち に中止す る ことを説明 した.

結 果

1. バ イ タ ル サ イ ン に お け る反 応(実 験1)

脈 拍 数 の 変 化 を図1に 示 した.実 験 群 にお い て実 施 前68.9±10.45回/分,実 施 後66.0±10.57回/分 で あ り実 施前 後 で 有 意 差 が 認 め られ た.対 照 群 に お い て は,実 施 前70.6±9.ll回/分,実 施 後69。6±10.38回/分 で あ り有 意 差は な か っ た.両 群 の比 較 で は,実 施 前 に有 意 差 は な く実施 後 に有 意 差 が 認 め られ た.
血 圧 の 変 化 を図3に 示 し た.収 縮 期 血 圧 は,実 験 群 にお い て 実 施 前98.1±10.05mmHg,実 施 後98.4±9.02
mmHg,対 照 群 に お い て は実 施 前102.8±ll.12mmHg,実施 後103.0±11.35mmHgで あ りいず れ も有 意 差 は な か った.拡 張 期 血 圧 は,実 験 群 に お い て 実 施 前64.6±6.26mmHg,実 施 後64.7±6.91mmHg,対 照 群 に お い て は実 施 前66.7±8.79mmHg,実 施 後65.9±7.91mmHgで ありい ず れ も有 意 差 は なか っ た.

2. 脳 波 に お け る反 応(実 験2)

1) α波 の 変 化

α 波 の 変 化 を図4,5に 示 し た.Fp2に お い て は実 験 群で は,実 施 前46.5±9.71%で あ り実 施 中44.5±9.36%と
わ ず か に低 下 し,実 施 後 に は47.7±1056%に 増 加 した が有 意 差 は な か った.対 照 群 で は実 施 前9.4±15.41%,実施 中39.1±16.75%,実 施 後36.8±15.12%と 次 第 に低 下し,実 施 後 は実 施 中 と比 べ て有 意 差 が 認 め ら れ た.両 群の 比 較 で は,実 施 前 に有 意 差 は な く実 施 後 に有 意 差 が 認め られ た.
F4に お い て は実 験 群 で は,実 施 前47.8±10.42%,実 施中45.7±ll.05%,実 施 後48.5±ll.00%とFp2と 同 様 に
変 化 し有 意 差 は な か った.対 照 群 で は 実 施 前43.3±15.38%,実 施 中41.8±16.79%,実 施 後39.3±16.80%とFp2
と同 様 に次 第 に低 下 し,実 施 後 は実 施 前,実 施 中 と比 べて 有 意 に低 下 した.両 群 の比 較 で は,実 施 後 に 有 意 差 が認 め られ た

2) β波 の 変 化

β 波 の 変 化 を図6,7に 示 した.Fp2に お い て 実 験 群 では,実 施 前17.3±7.86%,実 施 中17.2±6.63%と ほ とん ど
変 化 せ ず,実 施 後16.0±6.60%に 低 下 した が 有 意 差 は なか っ た.一 方 対 照群 は,実 施 前14.7±5.19%,実 施 中15.9±5.31%,実 施 後16.3±5.60%と 次 第 に 増 加 し,実 施 後は実 施 前 と比 べ て有 意 さが 認 め られ た.両 群 問 の 比 較 では,い ず れ も有意差 は認 めなか った.F4に おい て は,Fp、 とほぼ同様 の変化 を示 しいず れ も有意差 は認 めなかった.

考 察

1. バ イ タルサ イ ンにお ける反応

自律 神経機能 の間接的指標 として脈拍,血 圧 の反 応 を評 価 した.実 験1の 結 果か ら,呼 吸法 を実施 した実験 群
において実施後 の脈 拍数 が減少 した のに対 し,安 静 の みで は脈拍数 は変 化 しなか った.呼 吸法 に よって呼 吸数 は減 少す るが,深 い呼吸が1回 拍 出量 を増 や し,脈 拍 数 の減 少 を引 き起 こした といえ る.脈 拍 数の減少 について は,他 の リラクセー シ ョン技 法 に よって も示 され てお り,18,19同 じ結果で あった といえる.安 静状態 で過 ごした時 に比べ,呼 吸法 を実施 した群で脈拍 数の減少 を示 した こ とは,ゆ った りとした呼吸 を行 う呼吸法が 自律神 経系 に作用 し副交感神経 の活 動性 を高 めた可 能性 が ある とい え る.この ことは,心 電 図の分析 に よって導 かれ た副交感 神経機能指標 の報 告か ら推察 で きる.9～11血圧 は両群 ともに変 化が なか った が,こ れ は健 常被験
者で あるため に実施前 の血 圧が全 ての被験 者 において正常値で あ り,生 理的 に これ以上血圧 を低 下 させ る必要性が なか った とた め といえ る.呼 吸法 によって リラ ックス反応 を引 き起 こす傾 向が見 られた として も,自 動的 にホメオ スタ シス機構が働 き,実 施前 の値 に再調整 機能 が働いた もの と推 察 され る.高 血圧 患 者 の離 床 時 に リラ クセーシ ョン技法 を適 用 した報 告で は,血 圧 の上 昇が抑 えられた とされ ている.20こ の ことか ら,呼 吸法 にお ける血圧 の変化 は,健 常 な被 験者 で はほ とん ど起 こらず,血 圧が高 い患者へ の適用 時 に期待 で きると考 え られ る.

2. 脳波 の変化

大脳 機能 にみ られ る変化 として,前 頭連合野 にお けるα波の増加,β 波 の減 衰 に よ りリラ ックス反応 を評価 す
るこ とがで き る.α 波含有 率 は,実 施 後 に実験群 で は増加 し対 照群 では低 下 した.実 験 群 で は経時 的 な増加 で はなか ったが,実 施後 の安静 との比較 か ら呼吸法 の実施 がα波 の増加 を高 めた ことは明 らか であ る.覚 醒 また は緊張 の指標 とな る β波含有率 は,実 験群 で は低下 し対照群で は増 加 したが,有 意差 はな く明 確 な もの とは な らなか った.
実験 群 におい て は,5分 間 の意識 的 な呼吸 法 を行 うことで,そ の後 の安静時 には緊 張が とれて リラ ックス した
状態 になった と推測 で きる.こ の脳 波 の変 化 は,漸 進 的筋弛緩 法 による リラ ックス反応 の評価21と 同様 の結 果であった.安 静 のみで は α波含有率 の変化 はほ とん ど認 められなか ったが,漸 進 的筋 弛緩法 の実施 に よ り α波含有率 が増加 した.漸 進 的筋 弛緩 法 に よる リラクセー シ ョンの効 果 につ いては この他 に も報告 され てお り,本 研 究で実施 した呼吸法 は,脳 波上で も漸 進 的筋弛緩 法 と同様 の反 応が得 られ る と期待 で きる.む しろ,呼 吸法 は最 も簡単 な方法で あ り,漸 進 的筋弛緩 法 の ようない くつ かの プログ ラム を系統 的 に順序だ って実施 してい くとい う負担がないので,初 回か ら安心 して取 り組 める可 能性 があ るともい える.筋 弛緩 法 は,緊 張 弛 緩 に よってそ の感 覚の違 い を感 じ取 る もので あ るの に対 して,呼 吸法 で は,呼気 にのみ意識 を向 けて,身 体 の力 は呼気 に合 わせて脱力 して いけば よいので,筋 弛緩 感覚 自体 は十 分 でない とが考 え られ るが,本 実験 か らは一 定 の鎮静 効果 が見 いだ され てお り,リ ラクセー シ ョン技 法 として の有効 性 を評 価で きる.
安静群 にお ける経時 的な α波 の低 下,β 波 の増加 につい て は,次 の2つ の こ とが指摘 で きる.何 もしない安静
状態 で10分 間 過 ごす こ とに よって,座 位 で の安 静 という状況 が,あ る程 度 の活 動性 の低 下 とリラックス状態 を導 くと考 え られ る.そ の一方 で,脳 波 の測 定 をす る実験で ある とい う状 況下 において安静状態 で過 ごす こと自体が,逆 に緊張性 を高 め るとも考 え られ る.今 回 は,測 定機器 の装着 とい う こともあ り,後 者 の作用 が影響 した と推測 で きる.こ の こ とは実験群 につい て も言 える こ とであるが,呼 吸 に意 識 を集 中 させ る とい う課題 が,無 為 で過ごす こ とによる緊張 を避 ける効果 に結びついた可能性 もある.
本研究 によ り以下 の こ とが明 らか とな った.
1. 実験 群で は,対 照群 に比 べ実施 後 に脈 拍数 が有意 に減 少 し,仮 説1が 支持 され た.
2. 両群 ともに血圧値 の変化 はな く仮 説2は 棄却 され た.
3. 実験群 で は,対 照群 に比 べ実施後 に α波含有率が有意 に増加 し,仮 説3が 支持 され た.
4. 実験群 で は,対 照群 に比 べ実施後 に β波 含有率は低 下 したが,有 意 差 は認 め られず,仮 説4は 検証 で きなか った.

最後 に研 究 の限界 として,呼 吸 法の指 導 時,腹 式 呼吸がで きる ところまで は確認 で きたが,身 体 の力 の抜 け具
合 は個 人差が大 き く,弛 緩 につ いての生理 的 データ を測定 してお らず,十 分 抜 け切 れてい ない者 も含 まれ て いた可 能性 が あ る.初 回練 習者 で あ るた めの結 果 で あ るが,
何度 か練 習 を繰 り返 す こ とに よって さ らに効果 が高 まることも考 え られ今後 の課題 としたい.

お わ り に

初 回練 習者 におい て,意 識 的 に横 隔膜 を使 った呼 吸法に よって,他 の リラ クセー シ ョン技法 と同様 に リラックス反応 が得 られ るこ とが明 らか とな った.呼 吸法 は,全ての リラ クセー ション技 法の基礎 になってお り,こ の呼吸法 を練 習 してい くだ けで も,短 期 的 な効 果 が得 られ るこ とか ら,練 習 時間 を十分 に とれ ない場合 も含 めて,臨床的 な活用 範囲 は広い と期 待 で きる.今 後 さ らに,基 礎研究 に よる自律神経機 能 の評 価,臨 床研 究 に よる実践 での適用効果 を検 証 してい く必要が ある.